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明日も彼女は恋をする
カテゴリ: 入間人間 / テーマ: 感想 / ジャンル: 小説・文学

「ありがとうヒーロー。本当に、嬉しかったんだ」


第二百二十四回
入間人間の『明日も彼女は恋をする』

九年前から帰ってきた私を待っていたのは、ニアのいない現在だった。
私は、ニアを取り戻すことを決意する。
そして、同じく九年前から帰ってきた僕を待っていたのはマチのいない現在だった。
僕は、海難事故で死んだマチを救うため、再び時を越える。

以下、ネタバレ満載で感想をお送りする。

やられた。
これほど鮮やかにやられたのはずいぶんと久しぶりだ。

私は、最初、ニアとマチが、それぞれが死んだ世界に分岐したのだと考えた。
つまりパラレルワールドだ。
だが、「私」の世界にはヤガミカズヒコが存在する。
彼の正体については大体の人がすぐに察するだろう。
だがそれは、正解であると同時に間違いでもある。
わたしもそう考えた。
ヤガミカズヒコは、九年前の世界でマチを救い、そのままその時代に残ったニアだと。

気付くべきだった。
上巻では気付けなくとも、下巻において、二組目のタイムトラベラーが登場した時には気付けたはずだ。
そしてさらに上巻と下巻で表紙に描かれている男女が別人であることも鑑みればもう答えは明白だ。
しかし気付けなかった。
違和感はあっても深く考えなかったのは、単純に続きが気になって早くページをめくりたかったからだ。

何故、「僕」と「私」の本名が出てこないのか。
何故、一人称他視点で描かれているのか。
何故、大した役もなさそうな同級生の男に、玻璃綾乃という凝った名前が付けられているのか。
何故、「僕」が戻ってきた現在で、裏袋美佳が車椅子に乗っているのか。
何故、「私」が戻ってきた現在で、松平が島からいなくなっているのか。
この辺を考えていれば答えは出たはずなのに。
悔しい、が、見事に騙されて、それが嬉しくもある。

青春SFラブストーリーだと思っていたら、叙述トリックが仕掛けられていた。
ミステリでもあったのだ。

シュタゲでそうであったように、この物語でも、世界は残酷だ。
そして、この物語には、シュタインズゲート世界線のようなハッピーエンドは存在しない。
ならば、どうやってこの物語を終わらせるのか。

近雄を助ければマチが死に、マチを助ければ近雄が死ぬ。
そのことを知った「僕」――玻璃綾乃は積極的にではないにしろ、また、本人の同意があったにしろ近雄を見捨てた。
しかし、それを「私」――裏袋美佳は認めない。
松平の残した一枚の図面だけを頼りに、何十年かけてもタイムマシンを作り、ニア――林田近雄を取り戻すことを決意する。
たとえニアが望んでいなくとも。
きっとマチを犠牲にしても。
無論今度は綾乃がそれを認めないだろう。
これでは無間地獄ではないか。
まさかこんな終わり方になるとは。
これじゃあホラーだ。
冷や水を浴びせられた気分になった。
読後感は、はっきり言って最悪だ。
どう評価していいのやら、まだ結論が出ない。

だが、疑問は解けた。
松平の師匠という人物のことだ。
ほぼ間違いなく、それは執念でタイムマシンを完成させた美佳――ミー婆のことで間違いないだろう。
だが、そうなると卵が先か鶏が先か問題が生じる。
この問題は他にも、ボケた綾乃の祖母が、綾乃のことをヤガミさんと呼んでいたことや、マチの死因が未来から来た綾乃の行動に起因していることなどがある。
他にも、現在に戻って来た時、その時の自分に意識が上書きされることもなんだかおかしい気がする。
どうも、時間についての考察が十分になされているとは言えないようだ。
それとも私が気付いていないだけで、これらの問題を解決する解釈があるのだろうか。

一つおかしなところがあったように思う。
過去から戻って来た時、美佳は車椅子に乗っていたという描写がある。
その時点の現在において、美佳が車椅子に乗っているはずはないのだ。
それともこれにも意味があるのだろうか。

最後に、少し誤字があったのが残念だった。
非常に素晴らしい作品だっただけにちゃんとチェックしてほしかった。
これはまあ出版社側の責任かな。

いやあ面白かった。
特にこのラストだ。
心を無茶苦茶に揺さぶられた。
この感情を何と呼べばいいのかわからない。
入間人間という作家の他の作品もちょっとチェックする必要がありそうだ。


評価:AA


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Author:gaker
福井晴敏と本多孝好が好きです。大好きです。
もう家に本を置く場所がありません。

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2008 11/13(木)開設

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