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名前探しの放課後
カテゴリ: 辻村深月 / テーマ: 感想 / ジャンル: 小説・文学

ほんの数ヶ月先の場所から、どうやら俺、過去に戻された


第百三十八回
辻村深月の『名前探しの放課後』

依田いつかは、ある日突然(という言い方も少し変か)自分が三ヶ月前に戻ってしまっていることに気付く。
撤去されたはずの看板がある。
季節が違う。
そしていつかは一つのことに気付く。
ここが三ヶ月前ならば、自分がいた未来では自殺してしまった同級生はまだ生きている。
そこで、いつかはクラスメートの坂崎あすなに、相談を持ちかける。
「今から俺たちの同級生が自殺する。でも誰が自殺するのか思い出せないんだ」と。
そして、二人と、他数名による、自殺を未然に防ぐ計画が始まる。

辻村作品といえば他の作品とのリンクだが、この作品も多分にもれず、しっかりリンクしている。
ので、この作品から辻村深月を読み始めるということは止めた方がいい。
これ以前の著作(とくにある一作)を全て読んでから『名前探しの放課後』を読むことをお勧めする。
理由はあえて言わないが、強く、お勧めする。
大丈夫、全部面白い。

さて、内容だが、タイムスリップという小道具をこそ使っているが、自殺者の名前が思い出せないというのは『冷たい校舎の時は止まる』の二番煎じではないかと最初は感じた。
同じように感じた人も多いだろう。
しかし内容を読み進めていけば、そういう訳ではないことに気付く。
が、正直に言って序盤は退屈である。
もっと言えば中盤くらいまで退屈である。
だが、辻村深月の魅力はジェットコースターのような終盤にあると知っていたから我慢した。
何とも言えない違和感や、小さな齟齬のようなものも読みづらさに拍車をかけていた。
だが、それらは全て伏線で、終盤のジェットコースターは想像以上のものだった。

以下ネタバレ大量。

そう、全部、全部伏線だったのだ。
恐ろしいことにタイトルすらもそうだ。
「名前」は最初から見つかっている。
読んでいるうちに感じていた違和感や、齟齬も全部そうだ。
全ては挙げれないが、例えば、まずプロローグで自殺者はクラスメートだと言っている。
地の文でだ。
この時点で河野基が自殺者であることはあり得ない。

不覚にも気付けなかった。
河野が突然泳げるようになったのもそう。
彼は最初から泳げたのだ。
全てはあすなに25メートル泳がせてトラウマを解消させるための演技だった。
その後友春と河野が一緒に居るのをあすなが目撃してしまったのもそう。
彼らはいとこで仲は良かったのだ。
いじめなど、ありはしなかったのだ。
友春という人物の持つギャップ。
あすなの友人の三山志緒が語る友春と、実際の彼の行為との食い違いは、全て、演技だったということなのだ。
しかし大掛かりな仕掛けだ。
よくもまあばれなかったものだ。
あすなにもだし、周りにも。
みんな役者だなあ。
特に河野は恐ろしい演技力だ。
ぼろは出しているが。

他にも小さいものも入れればとても書ききれないくらいたくさんの伏線が散りばめられている。
そのおそらくすべてに私は意識的に、あるいは無意識に反応していた。
違和感や齟齬を覚えていたのだ。
だから、河野の自殺を止めることができてめでたしめでたしとなった時、これで終わってもまあいいじゃないかと思う反面、どこかでこれで終わりのはずはないと感じていた。
いつかがまた自分のために泳ぎ、絢乃ともきちんと話をして、大団円でいいじゃないか。
いやそうは思えない。
だって、まだページが残りすぎている。
それは十章のタイトルからも感じていた。
「青い鳥」――探していたものはすぐそばに。
いつかの知っている未来での自殺者は、坂崎あすなだった。

そうなってくると、主人公であるはずのいつかの内面がほとんど描かれていないのも、あすな視点や、彼女の描写がやけに多いのも頷ける。
他の人物は真実を知っているのだから、あまり踏み込んだ描写はできない。

そしてその後は終わりまで本当にジェットコースターだ。
正直そこからの展開は読めた。
にも関わらずかなりキタ。
不覚にも泣きそうになった。
昔よりは涙腺が緩くなったとはいえ、本を読んで泣くことは依然ほとんどない。
なんていうか本当に、これはもう分かっていても駄目だ。

そしてエピローグ。
まさかここからさらに一捻り入れてくるとは思わなかった。
秀人という人物に対しての違和感も確かにあった。
椿のフルネームが出てこないことにも気付いていた(途中で忘れてしまったが)。
しかしまさかこの二人が、『ぼくのメジャースプーン』の「ぼく」とふみちゃんだとは。
だがこの伏線もあちこちに散らばっていたのだ。
特に椿の方。
たくさん習い事をしていたこと。
字が上手いこと。
ピアノから逃げたいと思ったことがあること。
松永との面識。
正直ん? とは思っても深く考えなかった。
不覚だ。
となると当然、秀人が食事をしていた恩師とは秋先生になる。
そして、秀人が「条件ゲーム提示能力」を使った以上、物語に別の見方が出てくる。
それはいつかは本当はタイムスリップなどしていないのではないかという説だ。

 ――たとえばさ。今から三ヵ月後、自分が本当に気になってる女の子が死ぬって仮定してみてよ。そうしたら、自然と誰か思い当たらない? そういうのがないなら、いつかくんの人生はすごく寂しいよ。

これが秀人が無意識にいつかに出した条件だ。
その結果、いつかは「仮定」して考えたのではないか。
坂崎あすなが死ぬ未来を。
まるで体験してきたかのように正確に。
そうすると甥の名前が違うといった件にも説明がつく。

だが、あすなの祖父が実際に体を壊していることなど正確すぎるという点もある。
それに、祖父が死んだから自殺するというのは、いくら多感な時期でもあまり思いつきやすい動機ではない。
よって、この物語には、「条件ゲーム提示能力」と「タイムスリップ」の二つの不思議な力が働いているという考え方もできる。
しかし、これには秀人が三ヶ月という数字を正確に当てたという矛盾が残る。
それでもあすなの祖父の病気をいつかが知っていたということよりは、まだ適当に言った三ヶ月が当たる方が無理がないか?
微妙な所だ。

しかし、だ。
これは全て本当にあすなが自殺するという前提の上に立っている。
いつかが何もしなくてもあすなは自殺しなかったし、あすなの祖父も死ななかった。
その可能性もある。
というか正直それが一番高い気がする。
個人的にはいつかの行動が未来を変えたと信じたいところなのだが……。
甥の名前の件も、未来が分岐したからだと考えれば説明がつかないこともないし。
だがやはり、タイムスリップは起きなかった、とする方が理にかなっていそうだ。
まあそれでもいつかの行動に意味がなかった訳じゃない。
このことがなければいつかがまた泳ぐこともなかっただろうし、絢乃ときちんと話し合うこともなかっただろう。
天木達と友人にもならなかっただろうし、あすなとも話すことはなかっただろう。
いつかにとっていい「未来」になったのだ。
それでいいではないか。

さて、最後に残る問題だが。
それは、上記の、この物語の中核に関わる部分は、『ぼくのメジャースプーン』を読んでいないと考察することさえできないということだ。
正直個人的には、小説は一作品で完結していて欲しい。
他の作品とのリンクはいいが、それが物語の中核に関わってくるのは正直どうなのかという思いもある。
ただ、ファンとしては嬉しいし、それになにより面白いのだ。
だから、うん、許してしまう。
邪道かもしれない。
でも面白いからいいのだ。

さて物語の最後だが、非常に青春していて、かつ余韻のあるいいラストだ。
この物語の締めくくりにはふさわしい。

いやあ、面白かった。
退屈な序盤中盤を補って余りある終盤。
あの描写はそういう意味だったのか、あれはああいうことだったのかと、パズルのピースがはまっていくような感覚を覚える。
青春小説であり、SFであり、ミステリーでもある。
いや本当、ちょっともうたまらんね。
まだ書き足りないような気もするが、とりあえずここまでとする。

『別冊図書館戦争II』とか『君に届け 14』とかを先に読んだのだがこれらをすっ飛ばしてどうしても先に感想を書きたかった。
これらも十二分以上に面白かったし、近いうちに感想を書く予定ではいるが、それを超える衝撃がこの作品にはあった。
辻村深月は作品を書くごとに成長している。
そう感じた。
他に文庫化されている作品はあるだろうか。
読むのが楽しみだ。


評価:AAA


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Author:gaker
福井晴敏と本多孝好が好きです。大好きです。
もう家に本を置く場所がありません。

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2008 11/13(木)開設

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