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新世界より
カテゴリ: 貴志祐介 / テーマ: 感想 / ジャンル: 小説・文学

想像力こそが、すべてを変える。


第百三十七回
貴志祐介の『新世界より』
第29回日本SF大賞受賞作品

千年後の日本。
人類はついに呪力と呼ばれる超能力を得るに至った。
自然に抱かれ、注連縄に囲まれた集落、神栖66町。
人々はバケネズミと呼ばれる生物を使役し、平和な生活を送っていた。
そこに生まれた早季は友人たちと呪力の技を磨いていた。
しかしその陰でひっそりと消えていく子供たちがいることには、何故か誰も注目することはなかった。
そのかりそめの平和は、早季達が夏季キャンプで、ミノシロモドキ――正確には国立国会図書館つくば館の自走型端末、を捕らえ、先史文明が滅んだ理由と、今に至るまでの歴史を知り、今の平和がどれほど歪んでいるかということを知って、少しずつ狂い始めていく。

いやあ、面白かった。
一気に引きこまれるストーリー。
人間味のある登場人物。
文庫本三冊に至るボリューム。
全てが満足だ。
一つだけ不満があるとすれば、これは早季の手記という形をとっているので、早季が死なないということが早い段階でわかってしまうことだ。
覚についても同じことが言える。
そして逆に言えば、早季が手記を書いている時代のパートにおいて、名前が登場しない人物がどうなるかも予想がついてしまう。
せめて覚の名前は序盤では出さないでほしかった。
そうすれば誰が生き残り、誰が死ぬのかがわからないまま読み進めることができたのに。
構成としてはそっちの方が面白いと思うのだが。

物語が穏やかに進むのは幼年期までである。
夏季キャンプからは一気にストーリーが加速する。
呪力を奪われた状態で、外来種のバケネズミのコロニー「土蜘蛛」につかまり、脱走。
そのまま人間に従順な「塩屋虻」コロニーに保護され、「土蜘蛛」との闘いに助力を要請される。
覚が呪力を取り戻し、「土蜘蛛」と戦い、疲労で再び呪力が使えなくなる。
人間に従順とはいえそれは呪力があるからで、呪力が使えないことがばれたら何をされるかわからない。
といった具合でピンチピンチの連続で、読んでいて息つく暇もない。

私は最初、倫理委員会こそが最後の敵となると考えていた。
中でも稀代の天才、鏑木肆星こそがラスボスかと疑っていた。
だが、彼らにも、攻撃抑制と愧死機構(人間の遺伝子に組み込まれており、同種の生物を攻撃できなくなる)が備わっており、人間を呪力で攻撃することはできないのだ。
あるいは、序盤での記述から、真理亜が敵にまわるとも思っていた。
しかし、本気を出せば地球を割ることすらできると言われる鏑木肆星は活躍を見せるも、あっさり悪鬼(実際は違うが)に殺される。
真理亜に関する記述も彼女と守の子供が、人間に反逆を起こしたバケネズミの切り札となるという意味だった。
また、天才的な才能の片鱗を覗かせていた瞬も業魔となりあっさりと死んでしまう。
だが彼は後に重要な役割を果たすことになる。

とにかく作者がこれでもかと不安を煽ってくるので、本当にページをめくる手が止まらない。
そして、消えていった子供たちの真実などグロテスクな社会構造が次第に明らかになることで不安はさらに煽られる。
ますます先が気になってしょうがないのだ。
本当にうまく作られた物語だと思う。
これだけの長さが全く気にならないのは凄い。
構想二十五年は伊達じゃないということか。
たった千年で歪に進化した様々な生物などもしっかりと考えられていて、世界観に深みを与えている。
生物といえば、バケネズミの正体も意外で、人の業の深さを感じさせられた。

傑作ぞろいの貴志祐介作品の中でもこれは最高傑作といってもいいのではないか。
万人に進められるエンターテイメント作品である。


評価:AAA


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2008 11/13(木)開設

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