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凍りのくじら
カテゴリ: 辻村深月 / テーマ: 感想 / ジャンル: 小説・文学

「『テキオー灯』」


第百回
辻村深月の『凍りのくじら』

記念すべき第百回である。
何か特別なことをしたかったが時間と気力の問題で通常運転だ。
できれば、『終戦のローレライ』か『Op.ローズダスト』の記事を書きたかった。
10000ヒットの時も何かしたかったがタイミングを逃した。
余談だが11111ヒットは自分で踏んだ(笑)

さて、あらすじだが、藤子・F・不二雄を先生と呼び敬愛する写真家の父親が、死を間際に失踪して五年。
高校生になった理帆子の前に写真のモデルになってほしいという少年が現れる。
そして同時期、ろくでもない彼氏と分かれた理帆子のもとに謎の警告が始まる。

周りの人間との間に一本線を引いて見下し、それでも一人ではいられない主人公芹沢理帆子。
彼女に共感できない人、できる人、両方いるだろう。
程度の差はあれ、理帆子のような考えを持っている人はそう珍しくないと思う。
ただ、彼女ほど徹底して、しかも自覚している人はほとんど、というか皆無に近いだろう。
しかもそれでいて、たくさんの友人がいる、「少し不在」な理帆子。
読んでいてあまり気持ちのいい主人公でないのは確かだ。

そして、その少しの不快感を膨れ上がらせるのが、理帆子の元カレ、若尾だ。
「少し腐敗」な彼は読んでいて非常にイライラする。
なぜこんなに不快なのか。
それは、彼の気持ちが、一部でも理解できてしまうからだ。
若尾はかなり極端だが、自分に甘く、責任を他の者に押し付け、いい訳の弁ばかりたつ。
誰でも少しは持っている部分だろう。
そう言う人の醜い部分を煮詰めた人間が若尾だ。
だからこそ不快なのだ。

理帆子と若尾の違いは色々あるけれど、結局は自覚の有無ということになるのか。
不幸な自分に酔ってしまえる若尾とそれができない理帆子。
そういうことだろう。

不思議な警告のドンキの袋だが、あれを警告と読みとれというのはちょっと苦しい。
もう少し分かりやすいものは何かなかったのだろうか。

理帆子は芹沢光として、『スロウハイツの神様』にも登場する。
また、郁也とともに話し方教室に通うふみちゃんは『ぼくのメジャースプーン』の主要な登場人物だし、郁也らしき人物も同作には登場している。
辻村深月の作品にはこうしたリンクが数多くあり、恐らくすべての作品の世界が繋がっているのだろう。
こういう仕掛けは結構好きだ。

若尾の腐敗は物語が進むにつれどんどん加速する。
若尾から離れられない理帆子が追いつめている部分もあるだろう。
読んでいてひどく不快になる部分が多くなっていく。
それでもページをめくる手が止まらないのは、面白いからだ。
若尾がどこまで堕ちていくのかを見たいという、理帆子と同じ最低な感情が湧くからだ。

そして若尾は理帆子が考えていた以上の場所まで堕ちる。

だが、その不快な世界は「彼」の一言で一気に色を変える。
何というか、心が震えた。
感動したと言うと安っぽくなってしまうが、私は確かに感動していた。
いやー、今回は見抜けなかった。
違和感はあったのだが、そう来たか。
ベタといえばベタだが、いいものはいい。

物語は人を救えるか、というのは辻村深月のテーマの一つだと思う。
『スロウハイツの神様』でも語られていたテーマだ。
そして辻村深月は、物語は人を救えると確信している。
そして恐らくは逆に壊すことがあるということも。
良くも悪くも物語は人を変えうると考えているのだと感じる。
私はたくさんの物語を読んできたが変わったのだろうか。
正直、わからない。
私にとって物語は、現実逃避のようなものだからかもしれない。
物語に没頭している時だけ現実のことを忘れられる。
そこから何かを得ようとはあまり思っていない。
ただ、読み終わって何かを得た、と思えたものはいくつかあった。
それが変わるということなのかもしれない。


評価:AA


凍りのくじら (講談社文庫)凍りのくじら (講談社文庫)
(2008/11/14)
辻村 深月

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Edit / 2011.02.06 / Comment: 6 / TrackBack: 1 / PageTop↑
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Author:gaker
福井晴敏と本多孝好が好きです。大好きです。
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2008 11/13(木)開設

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