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虚貌
カテゴリ: 雫井脩介 / テーマ: 感想 / ジャンル: 小説・文学

第九十九回
雫井脩介の『虚貌』

二十一年前、逆恨みから、運送会社を経営する一家が襲われた。
両親は惨殺され、長女は半身不随、後自殺、長男は大火傷を負った。
解雇された従業員三名の逮捕で事件は終わった。
しかし、主犯に祭り上げられた男の出所をきっかけに新たな事件が動き出す。

この事件を最後の事件と決めて捜査する、癌に侵された老刑事、滝中守年が渋くていいキャラをしている。
この手の刑事が往々にしてそうであるように、家族(といっても娘だけだが)と上手くいってないところも含めて人間味が合っていい。
相方となる辻は、穏やかな人柄で、この二人は結構名コンビのように思う。

さて、肝心の内容の方だが、面白くはあった。
なのだがやはりこれはミステリーとしてみればアンフェアだろう。
要のトリックにしてもそうだ。
特殊メイクで別人に化け、おまけに指紋まで偽造できるとあってはもう何でもありではないか。
でもまあ、個人的にはそれはまだ許せた。
ただ、坂井田を殺した際、地の文ではっきりと「荒」だと書いてしまっている。
これで別人だった
というのはやはり駄目だろう。

後は詰め込みすぎなんじゃないかとも感じた。
朱音のエピソードは必要なのか。
これはこれで別の作品で扱えばいいテーマのように思う。

ちなみに、この人が犯人だったら意外だよな~、と思っていた人が本当に犯人でびっくりした。
そして最後に彼が言ったこの一言だ。

「俺はやっていない」

いや明らかにやっている。
なのになぜあの場面で嘘をついたのか。
読み終わってもこれはわからなかった。

ミステリーとして読むと、やはりアンフェアだ。
ミステリーとして読まなければ十分に面白かった。


評価:B



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Edit / 2011.02.04 / Comment: 2 / TrackBack: 0 / PageTop↑
クローズド・ノート
カテゴリ: 雫井脩介 / テーマ: 感想 / ジャンル: 小説・文学

第八十四回
雫井脩介の『クローズド・ノート』
映画化されている。

雫井脩介といえば犯罪小説化のイメージが強いが、今作は淡い恋愛小説、あるいは青春小説といっていいだろう。
しかも面白い。
文具店のアルバイトと音楽サークルに精を出す普通の大学生、堀井香恵は、前の住人が置き忘れたと思われるノートを見つける。
そのノートには「伊吹先生」の教師として、また一人の女性としての心情が書かれていた。
伊吹先生に共感し、次第に香恵の日常も変わっていく。

序盤の万年筆うんちくが意外と面白かった。
万年筆と一口に言ってもいろいろあるものらしい。
少し欲しくなってしまうくらいだ。

そして今作の「仕掛け」だが……してやられた。
これは見破らないといけなかった。
後から考えれば張りすぎるほど伏線は張られていた。
作者がほのめかすまでまったく思いもしなかった。
まさか隆と石飛さんが同一人物だとは。
石飛さんの下の名前が出ても全く気付かず。
隆を「たかし」と読むことに
何の疑いもなかった。

そして物語終盤で明かされる衝撃の事実。
これもノートの内容から可能性を考えてしかるべきだった。
いやしかし伊吹先生がすでに故人だったとは。
香恵と一緒に愕然とした。

心に染みいる名作だと思う。
非常に面白かった。


評価:A+


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Edit / 2010.10.19 / Comment: 2 / TrackBack: 0 / PageTop↑
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2008 11/13(木)開設

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