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模倣犯
カテゴリ: 宮部みゆき / テーマ: 感想 / ジャンル: 小説・文学

第百四十七回。
宮部みゆきの『模倣犯』

また広告を出してしまった。
新規開拓がなかなか上手くいかないので先月は、既読の面白かった作品ばかり読み返していた。
そうしたらあっという間に一ヶ月経ってしまった。
不覚。

まあそれはそれとして。
『模倣犯』は文庫本五冊にわたる大長編であり、恐らく宮部みゆきの代表作の一つなのだろう。
確かドラマ化だか映画化だかがされていたと思う。
見てはいないがSMAPの中居が犯人(恐らくピース)役だったはずだ。

それだけ評価されている作品だろう。
そう思っていたので、並々ならぬ期待をもって読み始めた。
外れの少ない宮部みゆきだから安心だという気持ちもあった。
そして、結論から言えば、外れだった。

内容としては、連続誘拐殺人事件を、被害者、犯人、それを追う刑事、ルポライターなどの様々な視点から描いた作品、といったところか。
二人の犯人の正体も比較的早い段階で明らかになる。
犯人が誰か、ということが問題となる種類の作品ではない。

以下はネタバレを大量に含む。
まあ犯人の名前はこの作品においてはネタバレとは言えないため隠さない。

何が引っかかったかというと、人物像がブレブレだと感じた点だ。
まず、ヒロミだが、彼は、自分を優れた人間だと思い、自分より劣った(と感じた)人間を見下しながら生きる男だ。
ヒロミについてはいい。
彼は一貫して幼稚な人間として描かれている。
いずれピースに見捨てられるだろうことも予測できた。
実際はそうなる前に事故死した訳だが。
しかし自首する気になるとは思わなかった。

次にカズだが、結局彼は弱気で愚鈍な人物だったのか、そうではなかったのか。
後者なのだろうとは思う。
実際行動を開始した彼はけして愚鈍ではなかった。
だが、序盤の描写とあまりにもギャップがある。
ただまあカズの描写は周りの人物からの目線で描かれているものが多かったため、このギャップは狙ったものと取ることもできる。
ただ、ヒロミも一種の被害者だと言うのはどうか。
カズは詳しくは知らなかったとはいえ、何人殺したと思っているのだ。
トラウマ持ちとはいえ、まだその言い訳が通じるのは最初の殺人だけだ。
以降の殺人は全く同情の余地はない。
捕まれば問答無用で死刑だろう。
まあでもここまではまだ許せる。

問題はピースこと網川浩一だ。
作者は、ピースをいわゆる悪のカリスマとして描きたかったのか、ヒロミと同種の幼稚な人間として描きたかったのか。
いや、後者なのはわかる。
結果からも明らかだ。
だが描写がブレブレなのだ。
カリスマ的な人物として登場したかと思いきや、すぐさま幼稚な面を披露する。
この段階でこいつは駄目だなと読者に感じさせてしまう。
と思ったらまたカリスマ的な雰囲気を醸し出す。
いや、わかるのだ。
恐らく作者が描きたかったのは、他者を見下し完全犯罪を気取るピースの愚かさ、幼稚さだろう。
だが、それが成功しているとは思えないのだ。
愚かなのは十分伝わるのだが、それを、強調したかったのならば、序盤はカリスマ性、完全性を前面に出し、それが崩れていく様を描いた方が良かったのではないか。
大体ピースの計画が上手くいっていたのは運が良かっただけだ。
ヒロミとカズの事故死などその最たるものだ。
自首が成功していたら、悠々と別荘で待つピースの元に警察が踏み込んで終わりだったではないか。
間抜けにも程がある。

そして(悪い意味で)圧巻のラストである。
まさかテレビの生放送で挑発に乗って自白するとは。
これはもうただの馬鹿だ。
そしてただの馬鹿ならば、何故警察はピースを捕まえられなかったのか。
警察をdisってるのか。
まあ実際は自白しなくとも時間の問題だったのだが。
しかも見苦しくテレビ局の一室に立てこもりそこで余裕を装う。
酷い。

また、『模倣犯』というタイトルがそもそもどうなのか。
最初このタイトルから私が想像したのは、連続殺人事件の犯人が不慮の事故で死んでしまい、あと一歩まで迫っていた警察も真相に届くことができなくなるが、そこで再び殺人が起こり、その犯人は別人でしかも最初の犯人よりもより手ごわい人物で……といったところだった。
テレビにかかってきた電話が一回目と二回目で人物が違った時はおおっと思ったが、模倣犯ではないことがすぐに発覚した。
別に私の予想はどうでもいいのだが、模倣犯、出てこないではないか。
もっと他にタイトルあっただろうに。

ここで少し気になって、映画版(ドラマではなく映画だった)の内容を調べてみたのだが、どうやら原作とは全く別物のようだ。
映画では、ピースはまさに、悪のカリスマとして描かれているらしい。
原作では偶然だった数々のピースにとっての幸運が、全てピースの掌の上で起こったことになっているようだ。
パーフェクト超人か。
そしてラストは自殺(爆死!)であるらしい。
映画でも挑発に乗って自白したのだろうか。
それとも自分の計画の締めとして死んだのか。
後者なら完璧だ。
ちょっと映画版が気になってきた。
ただ、宮部みゆきは映画版の出来が相当気に入らなかったようだ。
まあ確かに気持ちは分かる。
彼女の描きたかったテーマと映画とでは恐らく真逆に近い。

しかしあのオチはなあ……。
この五冊にわたる大作の締めが、あまりに陳腐で使い古され、手垢にまみれた安っぽいやり方だったのがやっぱりしっくりこないというか。


評価:D


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Edit / 2012.01.07 / Comment: 4 / TrackBack: 0 / PageTop↑
小暮写眞館
カテゴリ: 宮部みゆき / テーマ: 感想 / ジャンル: 小説・文学

彼女は英一に、嘘をついたことがなかった。いつも、どんなときでも正直だった。
――ちゃんと電話するから!
それが、最初で最後の嘘になった。



第七十四回
宮部みゆきの『小暮写眞館』

宮部みゆきを読むのは久しぶりだが、どことなく宮部みゆきっぽくない気がした。
特に根拠はないのだがそう感じた。

十分面白かったのだが前評判ほどではなかったとも思った。
そういえばハードカバーの小説を読むのは久しぶりだ。
基本的に文庫派なので。

さて内容だが、ひょんなことから主人公の花菱英一が心霊写真の真相究明をすることになり、友人や、懇意にしている不動産屋の協力をあおぎながら写真の謎を解き明かしていく物語だ。
持ち込まれる写真は合成であることもあればそうでないこともある。
それに、最初に心霊写真といったが、心霊という言葉ではくくれない。なぜなら生きている人間が写っていることもあるからだ。
作中では念写といわれていた。

全四話構成で第四話だけは写真は持ち込まれない。
というより心霊写真はこの物語の導入部分でしかないというべきか。
英一の内面も語られる。幼くして亡くなった妹の風子、その死に責任を感じていることなどだ。
親戚の前で英一が啖呵を切るシーンはスカッとした。

基本的に、登場人物たちは皆善意で動いている。
だからこそそこに差し込まれる悪意が映える。
風子の葬儀で英一の母親に投げつけられた言葉や、コゲパンに告白したサッカー部の奴や取り巻きの女子などだ。
そういうところを書くのが上手いのはさすが宮部みゆきだ。

それにしてもヒロインが意外だった。
おまえがヒロインかよって感じで。
最初に登場する女子高生でも良いし。
コゲパンでも良かったではないか。
そこをあえてあいつにするとは。
こんなヒロイン他にいないんじゃないかと思う。
でも、だからこそこの小説はこんなにも優しいのかもしれない。

基本的には穏やかでゆったりと物語は進んでいく。
だが時おり現われる不穏な空気(例えば風子のことなど)が現われる。
それでバランスが取れているようにも思う。

読後感も良い。
社長の言うとおり、あれは逃避ではなく出発なのだ。

走り出せ、花菱英一。
そうだ、走ろう。線路は続いているのだから。今はまだ見えないどこかに向かって走ろう。
そこにはきっと、春の花がいっぱいに咲いている。




評価:A+
久しぶりに書評を書いたが何だかしっくり来ない。
元々たいしたもんじゃないが、何だか書き散らかしただけって感じがする。



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Edit / 2010.09.03 / Comment: 4 / TrackBack: 1 / PageTop↑
初ものがたり
カテゴリ: 宮部みゆき / テーマ: 感想 / ジャンル: 小説・文学

第二十九回。
宮部みゆきの『初ものがたり』

時代物の、連作短編集かな。
全六篇。
宮部みゆきはほとんど読んでしまったので、あまり未読のものがない。
PHP文庫ってあんま見ないな。

内容は、岡っ引きの茂七親分が、下っ引きの糸吉と権三を率いて事件を解決していく感じ。
謎めいた元武家の稲荷寿司屋の親父がいい感じ。
その稲荷寿司屋の料理の描写が凄い美味そう。
夜中に読んだので腹が減ってしょうがなかった。
料理の描写がうまい人ってのは、きっと実力のある作家なんだと思う。

少し物悲しい話が多かったかな?
すれ違う思い、的な。
こういってしまうと何か陳腐だな。

やっぱ宮部みゆきは安定してる。
外れがないから安心して読めるな~。
これ続きとかないのかな。
稲荷寿司屋が事件に絡んできたりすると面白そうだけど。
それにいまひとつ謎めいたままだし。



評価:A




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Edit / 2009.01.14 / Comment: 1 / TrackBack: 1 / PageTop↑
かまいたち
カテゴリ: 宮部みゆき / テーマ: 感想 / ジャンル: 小説・文学

第八回。
宮部みゆきさんの時代物の短編集、『かまいたち』です。
現代物も時代物も面白いですが、どっちかといえば時代物の方が好きですね。

 「かまいたち」

表題作です。
謎の辻斬り「かまいたち」が江戸の町を騒がすなか、町医者の娘、おようは辻斬りの現場を目撃してしまいます。
読者には早い段階で、事件の大体の構図は見えるのですが、おようがそれを知るのは最後です。
ん~、表題作なんですが、個人的にはいまひとつ。

 「師走の客」

短めの短編です。
欲をかかずに地道に働くのが一番ってことでしょうか。
あまり賛成はできない考え方ですけどね。
これもあんまりって感じかな~。

 「迷い鳩」

長編も書かれている、「霊験お初」シリーズの最初の短編です。
霊能力を持つお初が事件を解決します。
お転婆なお初がかわいらしいですね。
岡っ引きの兄、六蔵との掛け合いも小気味良いです。
にしても、女は怖いですね~。

 「騒ぐ刀」

霊験お初第二弾。
この短編集の中でこれが一番好きかな。
妖刀って良いですね。
わくわくします。



評価:B



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Edit / 2008.12.03 / Comment: 2 / TrackBack: 1 / PageTop↑
プロフィール

gaker

Author:gaker
福井晴敏と本多孝好が好きです。大好きです。
もう家に本を置く場所がありません。

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2008 11/13(木)開設

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